木更津ミナート

木更津みなとぐちアートプロジェクト 2022 ミナート

ミナート REPORT

アートトーク第二弾 廣部昌弘教育長と教育長4人のアーティスト対談

ー市制施行100周年に向けて、木更津市の子どもたちの未来にアートができることー

参加者: 廣部昌弘教育長
参加アーティスト: 荒木美由さん、 刈込芳一さん、 関直美さん、 永津守さん
総合司会 :風戸重利 総合ディレクター
司会・進行 :佐々木綾子 ディレクター

 ーーーーー今回は、出前ワークショップと 11 月 17 日から 12 月 4 日まで開催の「みなとぐARTWEEK」、そして 20 年後の木更津市市政の施行 100 周年に向けて、木更津市の子どもたちの未来についてアートができることなど、未来に向けたトークができればと思っております。よろしくお願いします。

 廣部昌弘教育長(以下、廣部教育長)

 今回は、ワークショップに参加した学校の校長たちや生徒たちとも話をしたり、個人的な話になりますが、荒木先生には、うちの娘が担任をしているクラスがお世話になりました。生徒たちがとても喜んで、できれば毎年やってほしいと申しておりました。

荒木 美由 さん(以下、荒木さん)

先日は大変お世話になりました。南清小学校の4年生の1組と2組で、「小さな貝塚を作ろう!」というワークショップをやらせていただきました。

私は普段、石に穴を開ける作品を作っています。そのカケラの石をみんなに磨いてもらって、そこに漁業組合からいただいた木更津産のアサリの殻をくっ付けて、それを小さな貝塚と名付けた彫刻を作ってもらうプロジェクトを開催しました。

ただひたすらに石を磨く作業がメインなので、楽しんでもらえるか不安でした。やっている最中は、「腕が疲れた」「どこまで磨けばいいのか、何が正解か分からない」という反応が多かったのですが、最終的にとても楽しかったと言ってもらえて、とても良かったと思いました。

刈込 芳一さん(以下、 刈込さん)

どうやって磨きましたか?

荒木さん

紙やすりです。1回目の粗い磨きは私がやって、細かい目での磨きをやってもらいました。もっと磨きたいという子もいたので、子供の集中力を私は舐めていたなと思いました。

今回は化石の多い石を選んだので、掘っている最中に海の匂いがします。そういうときは、たいてい化石を掘り当てています。カケラも磨けば磨くほど化石が出てきます。だから、彫刻を作るというより、発掘する方向に行っていました。いろんなカケラがあるので、みんなに好きなものを選んでもらって、良い化石が出るかどうかは磨いてみないと分からないのです。途中で、磨いているときに嗅いでもらうと「海の匂いがします!」と言う子もいて、その反応が1つ1つ嬉しくて、とてもいい経験になりました。

ーーーーーそのワークショップには市長が参加してくれました。市長の石はいくら磨いても化石が出ないから残念がっていましたね。

荒木さん

市長は、子どもたちが選んだ後の小さなカケラしか残っていなかったので、化石が出ず残念でした。みんなが作った作品を私の作品と一緒に展示して大きなインスタレーションにする予定です。

刈込さん

私は今、木更津総合高校の美術教諭をしています。ワークショップはやっていませんが、私の生まれ故郷の富津の海で高校の美術部の生徒と一緒に流木を集めて、それを材料にして鳥居崎で作品を作ります。今回、流木を使おうと思ったのは、私が大学生のときに生まれ育った富津の流木で作品を作れないかというアイデアが浮かびまして、その思いが再燃しました。今回、私が作品を作る過程を美術部の生徒たちに見せて、ア ートとは何かを分かってもらえたら本望かなと思っています。作品には鏡をつけて、作ったものに見る側のものが映り込んで呼応するというか呼吸するというか、何か発見があれば面白いのかなと、そんな作品を考えています。

 関 直美さん(以下、 関さん)

私はずっと対岸の川崎市に住んでいます。木更津との関わりは、子供のときに潮干狩りで来たのを覚えています。今は、海ほたるという便利なものがあり、何度も往復しています。トンネルから出た時のフワッとした瞬間が気持ちいいです。伊豆大島、新島や父島で開催するアートプロジェクトを 10 年間やっています。私の自慢は、遠い父島まで船で行っても船酔いをしないことです。木更津というのは、海に面していて、海という共通点があると思っています。

あとは川崎大師の前の商店街でもアート展をやっていました。

今回のアートプロジェクトでは、清川中学校の美術部全員の1、2、3年生44人のメンバーと一緒にやりました。生徒用の昇降口の3枚の大きなガラス扉をそれぞれ1学年ずつと、職員用の玄関口のガラス1枚を3年生の有志が担当してクレパスで絵を描きました。

それぞれ担当する班ごとに分かれて何を描くか相談して、進めてもらいました。ただし、画面が大きいので時間がかかります。ワークショップの時間は 2 回に分けて時間をもらいましたが、それでも終わらないだろうと思っていたら、間のワークショップじゃない日に、自主的に進めてくれていたようです。ガラスにクレパスで描くときには、指で塗り込むときれいに色が出ます。生徒たちは両手がクレパスにまみれてグチャグチャになるくらい一生懸命に取り組んでくれました。作品は、昇降口のガラスなので切って取り出すことはできませんから、美術部の有志がカメラで作品の記録を取っていまして、それを展覧会場にスライドショーで、制作過程と完成したものを流すようにしています。

算数のように 1 足す 1 が 2 にならないのが美術です。直接話法ではなく、間接話法です。「私が人から聞いたことを私なりに解釈して伝える」という方法と思います。

廣部教育長

展示会場は愛染院ですね。いいところですね。

関さん

清川中学校の美術部のメンバーがノリノリで取り組んでくれて、気持ちのいい時間でした。清川中学校の美術部は、木更津駅の階段に絵を描く「階段アート」に取り組んでいたこともあり、今年は何をしようかということで今回のプロジェクトに参加してくれたようです。

廣部教育長

学区的な話をしますと、南清小学校の生徒たちは、全員、清川中学校に入学します。

荒木さん

では、アートプロジェクトの活動も引き継げるといいですね。

永津 守さん(以下、永津さん)

ワークショップの前にご説明をするプレゼンテーションに使ったパソコンの資料がありますので、それをご覧いただきたいと思います。まずは、私の作品を体育館に運んで、実際に見てもらいました。それから、以前私が参加したドイツとボリビアで参加した立体作品のシンポジウムの様子を紹介しました。ボリビアのシンポジウムでは、市役所の目の前にある大きな広場に原木を置いて、作品作りをしました。参加したのはロシアやフランスや南米から彫刻家が 10 人、助手として南米の若手彫刻家たちが 10 人。2 人 1組で、それぞれ 1 つずつテントが用意されて、作品を作りました。そのシンポジウムのあとに、私が講師として助手をした 10 人の若手彫刻家たちにワークショップを行いました。みんな、とても熱心でした。ボリビアでは、チェーンソーを使って彫刻をしました。この時の作品作りの時間がたった 2 日。ノミを使ったのでは間に合わいません。チェーンソーは持っていくと関税がかかりますから、現地で用意しました。

関さん

チェーンソーは行った先で購入して、現地のアーティストにあげちゃいますよね。


ーーーーー教育長が参加された第一小学校のワークショップも、なかなか難易度が高かったと思います。まず 2 人ペアになって、お題を出してそれを伝える係と、目隠しをして粘土を作る係に分かれます。そのお題も、お題の言葉を使わずにそれ以外の言葉で説明をさせるという、大人でも難しいことをやっていました。

廣部教育長

私にはとても無理そうです。

ーーーーー生徒たちの作品が思っていた以上のできばえで驚きました。伝える方も、ダイレクトな言葉を使 ってはいけないので工夫をして、間接的な言葉で伝えていくのです。その頭の柔らかさに驚きました。アートは正解がないと言われますが、まさにそれが表れていました。

荒木さん

私は、今、モチーフとして貝塚を調べています。木更津には、貝塚や古墳がたくさんありますのでそのお話を聞きに行きたいと思っていますが、大きな貝塚でも崩されていて記録として残っていない場所も多いのです。だから、実際に貝塚を見たいと思っても見られないことにガッカリしています。それもあって、みんなで新しい貝塚を作るというワークショップをしたのです。私がいま住んでいるのは千葉県でも東京寄りです。千葉県は、昔は今よりずっと水に囲まれていたのが、川や湾が埋め立てて土地が広がってきました。木更津は、漁業組合が海苔を給食に出しているというお話を伺いました。一時期は落ち込んだアサリもがんばっていますし、ポテンシャルは高いと思います。

廣部教育長

千葉県で干潟を持っているのが木更津だけです。東京から袖ヶ浦までは工業地帯で埋め立てられています。川が海に注いでいて、山と川と海がある土地は珍しいのです。貝塚に興味があるとおっしゃるけど、歴史ではないのでしょうか?

荒木さん

貝塚自体に興味があります。そもそも、貝塚そのものが歴史というか、人が生きた痕跡ですね。貝塚に人や動物が埋まっていることもありますね、そういうのを見える地層が面白いと思います。石もそれが見えるので興味があります。

廣部教育長

そのまま考古学という道ではない興味だったのですね。同じものを見ても、興味の方向が違うのですね。

荒木さん

ベクトルが別ですね。

木更津は貝塚が残されていないことも面白いと思います。人が住むために、過去に生きた人たちの場所が埋まっている、ということ。見えないけれど、下に埋まっているという。実はすごいことで、興味深いことです。

刈込さん

小さな子供のときに体験するというのは大切なことなので、今回このようなワークショップでぞれぞれが育ってきた環境を見直して、アートの世界に進んだり、あるいは別の世界に進んだりするきっかけになれれば良いと思います。

アートの世界でなくとも、木更津、富津、君津のエリアで一丸となって文化的な交流をできると、地区の子どもたちも将来や未来につながるのかと思います。

廣部教育長

木更津を中心に、袖ヶ浦、君津、富津の自治体が集まって、全ての小中学校の中でつながって何か広域エリアでできるとしたらおもしろいですね。

刈込さん

最近、スポーツではがんばっているように見受けられますが、まだアートや文化的な活動では足りてないと感じます。私は木更津総合高校の美術の講師をしていまして、今年から美術コースができました。今回のアートプロジェクトに参加している石城麻衣さんがその担当講師をしています。生徒数は、今年は13人、来年は15人と少数精鋭のコースです。元々、アートが好きな子供たちが多い土地柄と思います。 

昔はアートの授業は必要ないと言われて授業数が減ったりしていましたが、これからはアートというのは総合的な学問で将来に美術方面に進まなくても、心と感性を磨くために必要不可欠な学問で、この世界で生きていくためには避けられないと思います。

廣部教育長

小学校は学級担任の興味で授業内容が変わっていきます。生徒たちにとっては学校で誰と出会うかが大きいのでしょう。今回はそういう意味でも、プロのアーティストの方と一緒に学習ができたというのは、生徒たちにとっては、とてもいい体験だったと思います。それこそ、20 年後の市制施行100周年までに、こうして少しずつ積み重ねて作り上げられたらいいなと思いますね。

ーーーーーー今回は 11 校が、半日くらいワークショップに時間を費やしてくれました。 各学校で融通の付け方もそれぞれに違っていました。事前ミーティングでアーティストと話しながら、半日の時間を空けてくれる学校もありましたし、最初は1時間しか用意してなかったのが、当日の様子から急に時間をくれた学校もありました。そのキャパシティの広さに驚きました。学校からのアンケートの回答を拝見すると、次回以降も開催されるとしたら参加したいというお答えをいただいて、ありがたいと思います。

永津さん

今回、生徒の前で話をして感じたのは、聞く側に抵抗感がないということでした。私は最近自分のパソコンが容量一杯になってよくフリーズするようになりました。人間も同じようなところがありまして、スマホで新しい操作をしたいと思ってもやり方を覚えられない。まだ認知症でもありませんし、車を運転したり機械の操作もしていたくらいで、特別な機械音痴でもありません。でも、自分の空き容量が一杯だと覚えられないのです。

こどもたちは空き容量が一杯あって、いくらでも入るのです。

廣部教育長

私は教員になって 40 年になりますが、教育現場は変わっているようで変わっていません。学校で目立つのは、勉強ができる子と足が速い子。自然に序列ができています。でも、今回ワークショップに参加した生徒たちの笑顔を見ていると、序列がありません。中高の美術の先生はその中で成績を付けねばならないので難しいと思います。

市長もよくおっしゃっていますが、市としては多様性とか、共生社会を目指していきたいと思っています。多様性というのは文化レベルの高さに比例するところがあると思うので、やはり小さな頃から芸術に触れて、心を揺さぶってあげる。普段だったら揺さぶれないところを、いろいろな作品やアーティストと触れ合うことで、心を柔軟にさせてあげたい。それが文化レベルにつながって、相互理解や多様性や共生社会につながっていくのだろうと思っています。今回のアートプロジェクトは市制 80 周年の記念イベントで開催しましたが、これで終わりにせずに、来年からは何かの形で計画的に続けていきたいと思っています。

荒木さん

今回参加してくれた小学生たちも、20 年後の 100 周年には 30 代になります。その頃に思い出してくれたり、今回の経験が何か新しい視点になったらいいと思います。

廣部教育長

今回のアートプロジェクトの後には、今はシャッターを閉めている店も多い駅前のアーケード街を整備して、そこにアート作品を展示できたらと思います。

ーーーー今後は節目の年に記念としてアートイベントを開催し、その間をつなぐように毎年小規模でも何かしらの活動を続けるのが大事と思います。毎年続けていけば、20 年後には大きな流れになっているでしょう。関先生の作られたオブジェは、富士見公園に展示したトイレです。実際に使用できるものなので、展示の期間が終わったらどこか小学校などに設置できたらと思っています。

関さん

補足しますと、非常に便利な時代にあえて不便なものを考えようというテーマです。実際にコンポストトイレとして使える物を作りました。でも、これを使いましょうというとなかなか手が上がりません。だから、たとえば、非常時用に設置して、1年に一度、防災訓練のときに使用してみるとかもいいかと思います。コンポストは空気を入れてかき回すと発酵が進んで堆肥になります。そのために歯車を回すとかき混ぜられるような仕組みにしました。その歯車を回すのを、「コンポストトレーニング」として体験するのもおもしろいのではないかと思います。遊びながら、SDGsが体験できます。

廣部教育長

鎌足小学校で、給食の残りを肥料にして、農作物にして、自分たちが育てた有機野菜と有機米を給食にするという活動をしています。アートとして活動されていることが、現実的な活動といろいろとつながるかもしれませんね。

 

文:松本佳代子