木更津港の沖に浮かぶアサリの養殖場の見学報告
場所:木更津港
アーティスト:荒木美由
<木更津の特産品、アサリ>
木更津市にはたくさんの特産品がありますが、その1つがアサリです。
木更津市の海岸の沖合には、干潮時に自然の干潟が数百メートルもの幅で広がっています。この干潟は東京湾で一番の広さを誇ります。毎年、春から夏の潮干狩りのシーズンには、多くの人たちが潮干狩場でアサリやハマグリ探しを楽しみます。潮干狩りのようなレジャーだけでなく、アサリは木更津市の重要な水産資源として親しまれています。
ミナートでは、彫刻家の荒木美由さんが、木更津市を代表とする貝であるアサリの貝殻を作品の中で使用しようと考えました。アサリ漁で採貝されたものの中で、貝殻が割れたものは商品になることができずに捨てられますが、荒木美由さんはそれらを利用してインスタレーションに生まれ変わらせようというアイデアです。
そこで、アサリは一体どのように採貝されるのかを見学しました。
木更津市のアサリは、沖合で養殖していますので、その養殖の様子を見に行きました。
<筏のように沖に浮かぶ養殖場>
まずは、海岸から漁船に乗ります。
新木更津市漁業協同組合の副組合長理事・鈴木誠さんの操舵で、木更津港の船着き場を出発して、沖に浮かぶ養殖場に向かいます。
養殖場は、遠くから見ると薄い黒い板が浮いているように見えますが、近付くとたくさんのウキを筏のようにロープで固定して足場を付けた「生け簀」であることが分かります。その生け簀では、アサリやアサリの住み処となる砂を詰めたコンテナをロープで海中に吊り下げて養殖しています。この方式で育てたアサリは「つりアサリ」と呼ばれ、最近注目されている養殖方法です。
副組合長理事の鈴木誠さんは「2009年から試験的に養殖を実施しています。試行錯誤を繰り返して、3年くらい前から出荷を始めました」と教えてくれました。
木更津港には、このように沖に浮かぶ養殖場が4機もあります。
木更津市では「つりアサリ」の養殖方法が成果を出して、この15年で激減したアサリの漁獲量が少しずつ増えています。
その日は21個分のコンテナのアサリを採貝しました。だいたい、毎回コンテナ20個前後を採貝します。
アサリの採貝の方法は、ロープを引っ張ってアサリの入ったコンテナを海中から引き上げ、ロープを切ってフタを外し、中のアサリを取り出します。そのときに、粗い目の網に移して海水で砂を洗い落とすと、網の目のサイズより小さなアサリは落ちて、大きなサイズのアサリだけが残ります。こうすることで、大粒アサリだけを選定して出荷することができます。このように育てられた木更津のアサリは、身が大きく味がしっかりしていると人気があります。
<「つりアサリ」のアサリは身が大きく味がよい>
天然のアサリは冬の間に冬眠するようですが、「つりアサリ」の方式では冬を迎える前の11月頃に稚貝と住み処となる砂をコンテナに詰めて養殖場で海中に吊るします。こうして、安全な場所で育てることで、通常では冬眠する冬の間に「つりアサリ」は、1.5倍ほどに育つそうです。
鈴木誠さんは、「つりアサリ」の成長の理由を教えてくれました。
「アサリは日当たりと栄養がよく、常に水の中にいると成長します。これまでの養殖のやり方は、海岸に稚貝(=小さな貝)を撒いて育てる「地撒き養殖(じまきようしょく)」でした。この方法は天然アサリと同様に、真冬の干潮時に水が引くと砂浜のアサリは冷たい空気にさらされて、大きくならないまま死んでしまうこともしばしば起きました。その上、アサリを補食するツメタガイやエイ、クロダイや、東京湾を越冬地としている海鳥のスズガモ、アサリに寄生するウミグモも天敵です。それに対して「つりアサリ」では、稚貝のときからコンテナに守られながら空気中より温かい海中に吊して育てることで、天敵から身を守る事ができて、アサリのエサであるプランクトンが豊富な海水が常に周りにあるので成長が早いのでしょう」と言います。
この先進的な養殖方法で育てられたアサリは、木更津市内では厚生水産(「活き活き亭 富士見店」)、温泉旅館「鳥居崎倶楽部(https://toriizaki.club)」などで食べることができます。
鈴木誠さんおすすめの食べ方は味噌汁か、ほうかし(醤油仕立ての汁物)がおいしいそうです。
<割れた貝をアート作品に生かすアイデア>
このように木更津の特産品のアサリは、これまでは潮干狩りで掘ったり食べるだけでしたが、荒木美由さんは「ミナート」でインスタレーションの材料に使用して生まれ変わらせようとしています。
荒木美由さんの作品は、ミナートの開催期間中に旧保健相談センターで展示される予定です。
「つりアサリ」で育てられたアサリの貝が、どのようなアート作品に生まれ変わるのか、こうご期待です。
文:松本佳代子